鍼灸学校設立の規制緩和を端緒に、鍼灸学校数の激増から近年、鍼灸師国家試験合格者が毎年6,000人前後、社会に送り出されていると言われ、鍼灸学校在学生はこのような状況の中に立たされています。従来の学校数のときでさえ接骨院との併設でないと経営が難しいとされてきました。今後の鍼灸単独開業の厳しさは容易に想像がつくはずです。
これまで、学校の授業では卒後の臨床技術が身につかないという不満を多くの鍼灸学生が抱いてきました。不満を持ちながらも、多くの学生が目先の学内試験、国家試験をクリヤーすることだけを目標とした全体の雰囲気に流されて来た傾向があります。ここに卒後の開業鍼灸師がきわめて少なくなっている理由があると思います。
卒後、盛業鍼灸師として開業できた人は、それとは違い在学中に臨床技術修得の目標を的確に立てていたはずです。卒後の目標が出来ていることで、鍼灸学校在学中の授業は卒後の臨床に通じるきわめて充実したものなるはずです。
鍼灸学校在学期間がただ単に資格取得のためか、あるいは卒後の臨床に向けての貴重な基礎作りとなるかは心構え一つで決まりますが、従来から多くの卒業生が臨床の出来ない資格だけの鍼灸師で終わっている現実をしっかり見据えるべきではないでしょうか?
卒後の進路は様々ですが、最近は病院医療に進む鍼灸師が増加しています。これは鍼灸界のエビデンス重視の方向性と関係するのでしょうか。わたしは、このような鍼灸界の傾向が必ずしも治療効果面での鍼灸のレベルアップにつながっているとは考えていません。それは治療効果の目標が病院医療の水準でよいことになります。治療効果面で、それ以上の効果を求めている国民の期待とは、ずれがあるように思いです。病院医療における治癒不能な多くの疾患が存在しているのですから、病院医療の中に収まる水準の鍼灸に対して、受ける国民サイドからは、魅力ある医療とは映らないでしょう。
真に国民の要望にこたえ、高度の鍼灸効果を実現する可能性を有しているのは、これら病院医療に進む鍼灸師ではなく、病院医療の一端としての制約を全く受けないところの、年々減少傾向にある開業鍼灸師だと思います。鍼灸の本来の特質である、より高度の治療効果を目指す開業鍼灸師が少しでも増えることを、わたしは鍼灸学校在学生に期待しています。
今、国民が求めている医療は?
病院医療において多くの慢性疾患が治癒不能となっている今日、それを改善できる可能性を秘めている医療は鍼灸をおいて他に見出せないと考えています。鍼灸といっても、それは飛躍的効果が望めない一定レベルの鍼灸ではなく、その病院医療を凌駕するところの鍼灸でなくてはなりません。それは当然、開業した場合、近隣にある各種医院が経営面で脅威を抱くだけの成績を上げる鍼灸院でなくてはなりません。
なぜなら、鍼灸はあらゆる科の治療ができるからです。そしてすべて原因治療が可能で、症状をぼかす対症療法を必要としていないからです。各専門の領域での多くの疾患に、医院を凌ぐ効果を上げられるはずだからです。現状の無資格の整体院との競合に目くじらを立てる水準の鍼灸ではありません。当然それは、従来の鍼灸理論の枠を大きく外れたところの鍼灸です。
同じ鍼灸理論という制約を受けている以上、臨床における画期的治療効果が期待できないことは、鍼灸の歴史、あるいは日本鍼灸、中医鍼灸を比較して見ても理解できることだと思います。治療技術の飛躍的効果を期待できる可能性は、少なくても、従来の理論的制約を全く離れたところの鍼灸理論、全く未知の領域の診断ができる鍼灸理論であると考えます。従来の鍼灸を凌駕した高度鍼灸技術の開発によって、今日の医療社会の問題を画期的に改善することが可能になるでしょう。その志を持った鍼灸師がより多く医療界に進出してほしいと思います。
新鍼灸法の開発
我々は、新鍼灸法を長年月かけて開発してきました。開発当初から病院医療に無批判に追従することを排除して、臨床体験での自己の感覚と患者の体を通した診断と治療による効果の実証に基づいた治療理論をシステム化してきました。その結果、病院医療での多くのあいまいな点、非科学的医療をも数多く見出してきました。また、それらが病院医療での難治疾患、難病を改善できず、日常的な慢性疾患においても効果を上げられない理由にもなっていることも分かってきました。従来の鍼灸ではこれらの病院医療の診断をそのまま正しいものと踏襲し、多く問題点を見落としてきています。
今後、難治疾患が溢れる社会を解決する医療は、多くの不完全部分を露呈している病院医療とその代替医療に安住している鍼灸ではありません。それらに代わる効果面での正統医療としての鍼灸だと思います。
そのような鍼灸とはどのようなものでしょうか? その鍼灸法を目指し開発してきた鍼灸法があります。後で少し触れる、半身症候鍼灸法です。この新鍼灸法では、数々の疾患に画期的効果を上げています。
新鍼灸法での臨床
我々が開発してきた新鍼灸法では、従来の鍼灸法理論の枠から大きく離れた未知の領域の診断から、多くの臨床上重大な問題を数々発見し、その診断法を基軸とした鍼灸理論を構築してきました。それは従来の病院医療、鍼灸学が全く知られていない生体現象で、多くの疾患に共通する臨床上きわめて重大な問題です。
代表的なものには、X線、MRI等の画像診断で検出不能な微細骨折や感染症があります。この2種の問題は多くの疾患に共通しており、多くの病態に深くかかわっています。感染症については病院医療でもその多くが、血液検査でも検出難しいもので、これらを診断できることにより未知の疾患の病態、原因を的確に理解することができて、多くの疾患を改善することが可能になります。
病院医療においても、従来の鍼灸臨床においても、これらの分野の存在を欠くことで表層的、一面的診断に成らざるを得ないのです。
これらの現象の見落としから、従来の鍼灸法による診断、治療効果の不鮮明さが生まれています。多疾患が原因不明とされ、画期的治療効果も期待できません。そして予後の判断もきわめて難しいことになります。
鍼灸の需要
鍼灸界では従来から、鍼灸治療の需要が少ないとみなしているようですが、それは全く誤りです。鍼灸院に患者が少ないからと言って、一方的に需要がないとは決め付けられません。病院医療での限界の疾患や障害で悩む国民が満ち溢れていることを鍼灸師、鍼灸界は気づいていないのかもしれませんが、一般国民にとっては皆、周知の事実でしょう。
つまり、鍼灸の需要がないのではなく、治る鍼灸ならいくらでも需要があるが、現在の鍼灸レベルでは需要がないということなのでしょう。そして鍼灸の効果がまだ国民に知られていないとの鍼灸界の声にも首をかしげます。鍼灸学生入学者数の激増から、鍼灸そのものは国民に知悉されていることが分かります。患者が少ないという鍼灸界の悩みは、その効果を国民が信頼していないということだと見ています。
現実には多くの難治疾患、難病者が満ち溢れているのです。もっと高い治療効果を上げられる鍼灸ならば、このような需要がないということはあり得ません。そのような高度の鍼灸臨床によれば、学生の皆さんがこれから取得する鍼灸資格によって、多くの国民が悩む難治疾患を治し、救うことができるでしょう。医師資格による病院医療でも治せない難病の治癒を目指すことが、鍼灸資格をじゅうぶん活用することで可能となるのです。これから取得する鍼灸資格をこのような難病治療家として生かしてみませんか!
高度な鍼灸臨床を目標に
より高度な鍼灸臨床を目指すには、その第一歩は、鍼灸臨床の現実を知ることです。従来、日本鍼灸は常時、病院医療と対比した場にあったと思います。病院医療での不充分な分野での補完的地位に存在価値を見つけ、その範囲で鍼灸効果を証明してきたのではないでしょうか。
だとすれば、主体部分である病院医療内に効果上の問題点が内包されていた場合には、鍼灸の発想自体もその問題点に関知しないまま踏襲する危険性があります。つまり補完であれば、その共有する主体部分に共通の誤謬を犯すことになります。事実、現在の鍼灸界には病院医療での行為を無批判に鵜呑みしている面が多々見られます。当然そのことで鍼灸医療においても誤りを共有したまま不正確な治療を進めることになってしまいます。真に鍼灸が進歩するためには、病院医療での問題点をも的確に検証して一点の曇りもない診断と治療が欠かせませません。鍼灸の歴史を見ても、取穴に徹底してこだわってきたくらいですから、診断においてもその厳密さが要求されて然るべきではないでしょうか?
鍼灸の宣伝不足という声に
社会に膨大な難治疾患患者が満ち溢れ、そして永年の鍼灸普及の歴史がありながら、業界には鍼灸がまだ国民に知られていない。もっと宣伝の必要がある式の言動も見られますが、すでに前項で触れたように国民はすでに鍼灸にあまり期待できないと判断しているのです。患者が来ないという前に鍼灸師に求められているのは、ただ確実な治療効果を上げること以外にはないということなのでしょう。
鍼灸院がいかに少ない患者数でも、0でない以上効果が上がっていれば患者は増えるのが道理です。一人の患者から、兄弟家族、親類、友人、知人と留まることはありません。わたしごとですが、26年前に鍼灸学校時代の同級生からの紹介で、彼の姉の友人という人が来院しました。次にはその患者の書道の先生で高校教師の方が来院し、それからはその同僚から始まり、現在までそのルートで来院した患者は多地域に拡大し、少なくても1,000人以上に上っています。現在もねずみ算式に増え続けています。
鍼灸界が開業鍼灸院の経営難の原因を宣伝不足に転化するのは正しいとは思えません。
鍼灸の効果
鍼灸には、客観的な見方として効果があいまいということがあります。この点から病院医療における鍼灸は低い評価しかされていないのでしょう。古典鍼灸理論、あるいは現代医学的鍼灸理論どれを採っても理論上に限っては、完璧かもしれませんが、果たして効果の実証が伴っているのでしょうか?日常遭遇する多くの疾患に確実な効果を上げているのでしょうか?
指導者の中からは鍼灸は悠久の歴史を有している。西洋医学と違い、伝統として残っていること自体が科学的根拠であるという理解し難い声も耳にします。
臨床上、痛み一つとってもきわめて複雑です。四肢関節系の痛みにしても、現在多くの痛みのケースでX線、MRIの画像から骨格の異常がない、骨は正常という整形外科の診断がされています。この点、鍼灸では診断ができるのでしょうか?骨は正常という見方の元に、診断ができないが治療をする方式の対症療法にならざるを得ません。急性の上腹部痛なども救急医療で鎮痛剤を打つくらいで、一両日後、痛みの消失と共に原因不明のまま退院させられる疾患が多発しています。各鍼灸理論で複雑多岐にわたる人体各部位、部分の痛みについても説明できるでしょうか?なぜ痛むのか、なぜそこが痛み、なぜ一部位だけに障害が生じたのか?腰、下肢の痛み側と上肢の痛み側が逆のケース、手指の痛みが一指だけなぜ反体側に生じているのか…等々、その障害の程度についても明確に説明ができるでしょうか?直ぐ治る痛み、なかなか治らない痛み、その理由を説明できるのでしょうか?更には、終末期の悪性腫瘍での疼痛緩和、あるいは一縷の治癒の望みをかけて来院する患者に対して、いずれも治療の要点は腫瘍の変化を知ることであるはずです。
痛み一つ取り上げても、現代医学理論、あるいは古典理論で説明ができるほど生体機能は単純ではありません。人体は小宇宙と称しても、具体的人体細部の説明ではあまりも粗雑です。脈診では、最も関連がある心臓の詳細な診断ができない。患者の立位、座位、仰臥位それぞれの体位で脈状が変化します。また診断する術者の立位、座位によっても患者の脈状に変化が生じてきます。あるいは脈をとる各術者によっても、患者の脈状が変化してしまいます。
よく聞かれることで、
「なぜか理由が分からないけれど、このツボで治るのですよ」
という鍼灸指導者の、自らのあいまいな臨床を恥じることなく、逆に誇らしげに語る例も散見します。診断に基づかない刺針を普通に行い、それは人体全体が見えていない対症療法であることにも気づかないようです。
悪性腫瘍なども疼痛緩和医療一辺倒、あるいは進行を遅らせればそれを良とする傾向を否定しませんが、鍼灸では悪性腫瘍を治してはいけないかのような圧力をかける空気さえ一部に感じられます。一部の病院勤務鍼灸師の医師におもねる影響かもしれません。
理論に基づいた刺鍼をしても、事前に効果の予測が立てられない。刺鍼後もし効果が見られなければほかの方法を行う。遠道刺、巨刺にしても、効果が上がる場合と効果が上げられなかった場合の理由を説明できない。その症状部位と刺鍼部位とはどのような関係があるのか?症状が消えればそれでよい。残存するときは治療が不完全として他の処置をすることが多いなどあいまい性が見られます。つまり、刺針の解剖学的作用が説明できないのです。
正確な治療がなされても症状が消えないとき、誤治療でも症状が消えることがあることを知らない等、種々な面で不確実な要素を抱えています。
鍼灸臨床はわずかでも診断に甘さがあれば効果が上がりません。いくらまぐれで著効があったとしても、それは的確な診断での効果を知らないからです。常に治療効果の向上が計れる鍼灸理論が存在していなければ、以上のような多くの矛盾を内包し、それが隠されたままの鍼灸臨床となってしまいます。
正しい治療はすべてにおいて正確な診断から始まります。診断がすべてで、その原因探求に一点の曇りも許されません。より正確な診断、即より高度の治療効果となります。偶然の効果など求めてはなりません。これは鍼灸臨床とて例外ではないと考えています。
鍼灸における感覚の訓練
鍼灸は元来、目に見えない、医学上も全くその存在すら証明できない気血の循環を基本とする、まさしく気の医学です。当然のことに脈診、触診での手指の鋭敏な感覚を重視するようですが、不思議なことにその具体的訓練法が皆無に近いのではないでしょうか?アメリカのカイロプラクティック大学では、様々な訓練法を指導されているようです。書籍の中に髪を一本挟み何ページまで、その中の髪を知覚できるか?あるいは学生は一個の椎骨模型を常時携帯して、ポケットの中に手を入れて手探りでその形をイメージする訓練などです。
次に挙げる我々が開発した鍼灸法では、触診での身体感覚、あらゆる診断における体勢作りを最重視しています。その指導から瞬時に未知の感覚を知ることができるのです。
半身症候鍼灸法
現代医学の主流である病院医療と従来の鍼灸治療において見落としている、広範囲にわたる臨床上重要な生体現象があります。従来の医療においては一定の層までの問題しか診断対照になっていなかったのです。
例えば、病院医療では筋骨格系の障害に対して画像診断レベルを超えた微細な骨格の損傷は一切診断の対象外とされ、古典鍼灸理論では主に骨格系を中心とした生体の構造力学的、あるいは構築学的見方がありませんでした。胸部、上腹部臓器の機能に直接関与している肋骨、脊椎についての記述がありません。泌尿器、小腸、大腸、生殖器機能に直接関与する骨盤の変位の診断もありません。
我々が考案した新鍼灸法は、国民から真に要望される難治疾患、難病治療に厳密に対応できる治療法として開発しました。この新鍼灸法とは半身症候鍼灸法といい、我々はこの鍼灸法を平成5年に考案した後、5~6年前より公開し指導しています。
精神疾患をはじめ、多くの脳神経系の疾患を構築学的変位の面からとらえ、骨盤の微細な変位の操作からの脳の調整で改善できることを知りました。あるいは腰痛をはじめ筋骨格系の障害を脳の一部の変位の調整で改善できることや、大部分の、子宮・卵巣疾患を下垂体の歪み、膨張、収縮異常の調整で瞬時に調整できること。あるいはうつ症状の多くを脳の歪みや下垂状態を操作することで、瞬時に気分と表情が明るく変化することなど、多くの重要な生体現象を発見しています。
あるいは、身近の多くの原因不明とされる疾患がありますが、その原因を知ることでこれらにも確実な効果を上げています。このような治療上重要な未知の領域の診断、治療を展開する鍼灸法です。
この半身症候鍼灸法では、上記の重要な原因となる障害を、1~2穴の刺針ですべて確実に調整します。経絡治療での標治法のような選穴を追加することは決してありません。その刺針ポイントは、天柱と脳戸、それぞれの付近です。そこが全身に及ぶあらゆる疾患を改善する反応点となります。0番の細鍼により約1ミリ浅刺しますが、置鍼時間は30秒ほどです。その時間内に全身の生体機能が活発になり、血液循環、筋肉系の弾力が改善され、脳、内臓の血行がよくなり弾力も生じます。そして全身の障害部位が変化しだします。
半身症候鍼灸法セミナーは、基礎シリーズとして6ヶ月コースを開催していますが、セミナー参加者は、いずれもこの未知の鍼灸法を、鍼灸学習上初めての感動を持ったと言い、生き生きとした表情で学んでいます。このセミナーでは臨床経験の長さ、鍼灸学生の差は全くありません。物言うのは、人体という生体を操作する、謙虚な姿勢だけです。毎期、刺鍼経験の皆無な鍼灸学生のなかにも、目覚しい修得ぶりを見せている参加者がいます。わたしは、これらのセミナー参加者が、近未来の日本鍼灸を確実に改革していくことを確信しています。